ホースディアーだけのチケット

五月の末。

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この時期は天気がはっきりしないが、梅雨よりはましだ。

里奈は午前だけパートで勤めをしていた。スーパーの総菜部だ。前日の余った総菜は午前のパートの主婦たちがこっそりとタダで貰って昼食に食べたりする。持ちのいい総菜は晩ご飯に忍ばせる。

旦那はそうとも知らずに奥さんが作ったものだと思い込み普通に食べるのが総菜部の特権だ。

実家の遺品整理はほぼ毎日。兄や妹はやってくれるわけもなく、里奈が一人で片づける。節子の家には何十年も前の思い出の品から何カ月か何年か前の鍋に入った煮物までがあった。

その鍋の蓋は透明で、蜘蛛の巣のような膜の間にレンコンが見えており、蓋を開けるには勇気がいる。里奈は左手にレジ袋といらなくなった古雑巾を持ってゆっくりと蓋を開けた。

すると、いきなり火山の噴火のようなはっきりとした白い煙が勢いよくシャ~~~ッと上昇していった。

「キャ~~~!!」

そして、煮物をレジ袋に入れ、残りの鍋にへばりついた煮物を古雑巾で拭き取った。そして思いっきり水道の蛇口をひねりジャ~~ッ! と鍋に入れその場からしばらく離れた。

そんな中、お金になりそうな遺品もあった。

結婚式での引き出物やら貰い物のバスタオルや食器類。それに使っていない布団もあった。食器や布団はボランティア団体へダンボールで郵送したが、リサイクルショップでお金になりそうなブランド物はまとめて売ったりした。

リサイクルショップは市内にも隣の市にもいくつかあった。タダ同然で預かったり、何一つ預かってくれなかったりする店もあるが、持って行けば必ずお金に替えてくれる店が沼津にあった。

里奈はその店の存在を知った後、ほとんどそこに遺品を持って行った。遺品整理で一番驚いたことは、買い取り屋に家具や地域で引き取らない電気製品を自宅まで来て買い取って貰ったときのことだ。

その日は大きな食器棚、冷蔵庫、洗濯機、それに節子がヘソクリを入れたというあのタンス。合わせて四つ持って行って貰った。それだけで二万円かかると言われた。

高いとは思ったが、引き取ってもらうことにした里奈は、そんなことよりあのタンスのヘソクリ百九十万円は本当に誰かに取られてしまったのかが心配だった。

タンスも冷蔵庫も食器棚もすべて中身を出した状態で持って行って貰った。そのタンスも結局何もなく、買い取り屋はタンスの真ん中のネジを取って二つのタンスを二回、つまり上下を分けて運んだ。