そしてとうとうある日、エンリケについてのある情報が、首都ハバナ近郊の都市の消印がついた手紙によってもたらされた。それは、一番近しい戦友だったというアルベルト・マルケスという兵士の手になるものだった。書簡には、某月某日、政府軍との戦闘の際に、背中に受けた銃弾がもとで、エンリケが亡くなったと書かれてあった。彼は引き続きゲバラの部隊に属しており、この医師であり文筆家でもある偉大な革命家が一昼夜通して治療に当たったが、残念ながら救うことはできなかった、ということが、悲痛な文面で綴られていた。

家中が、悲しみの沈黙に包まれた。ドーラもホセ・ベルナルドも、ほかのすべての兄弟姉妹たちも、一年間の喪に服し、いかなる祭りにも華美な催しにも出席することは控えた。

息子の死に打ちのめされ、余りにも若くして散った命のために祈りを捧げる都度、ドーラは革命軍の進撃の度合いに光を見出していった。そしてまた同時に、お腹のなかで日に日にこの世へ出てくる準備を整えている、いまはもう男の子だとはっきりわかっている赤ん坊に、励まされている気がした。

そして奇しくもフィデルの軍が大歓声と紙吹雪に迎えられてハバナに入ったその日、ホセ・ベルナルドとドーラの八人目の子が無事生まれてきた。夫婦はその子を、エルネストと名づけた。

――エルネストの命名時には、物議を醸す問題が持ち上がった。それに至る経緯やそのときの出来事をドーラは鮮明に覚えていて、詳しく話してくれた。それには彼女の燃えるような情熱の記憶、夫に対する不義をはたらくことなしに、熱愛する人の子どもを産んだときのカタストロフがふんだんに盛り込まれていた。

――司令官コマンダンテが民宿の入り口から入って来たとき、ドーラはある感銘を受けた。政府軍とのあいだで野蛮なゲリラ戦という行為を繰り返してきている人間にしては、ゲバラの物腰は柔らかく抑制が利いていて、そして極めて紳士的だった。彼の物言いにしろ振る舞いにしろ、すべてが知的で相手への配慮に満ちており、それらはいままでドーラが革命戦士に対して抱いていたイメージとはかけ離れていた。それに加えて、間近で見るゲバラは彼女が過去に見たどの男性よりハンサムで男らしかった。茶色の黒がかった柔和な瞳の目は、白目の部分も合わせて全体に驚くほど澄んでいて、心をつかまれずにはいられない輝きを放っていた。このような目をした男を彼女はそれまでの人生で見たことがなかった。

「見つめていると、胸がときめいてくるようないい男だったんだよ」

ドーラは思いがけず顔を赤らめてそう言うのだった。ゲバラの話をするとき、彼女は若い娘のようにはにかんだ。

エンリケを伴って革命軍が去ったあとも、あの司令官コマンダンテの面影にドーラは心奪われていた。彼の声、彼の顔、彼の姿が、脳裏に焼きついて離れなかった。一度は息子を殺されるかと恐怖したが、彼は殺さず、それどころか息子の革命熱に応えて仲間に入れてくれた。いまではエンリケのことをゲバラに預かってもらってよかったとさえ、ドーラは思っていた。

そしてエンリケの戦友アルベルト・マルケスの手紙にあったように、このアルゼンチン人の英雄がエンリケの死の床の面倒を見たということを知った途端、その瞬間から彼女のなかで何かが弾けたように、憧憬は恋着に変わり、更にエンリケの死を乗り越えようとそれに上書きするかのように、ドーラのゲバラへの愛は深まった。それは恐るべき効力をもたらして、次に生まれてくる八人目の子にまで作用した。お腹のなかで胎児が育っていく急激な成長の過程で、ひとつひとつの細胞が分裂する度に、それらの細胞にはドーラのなかに根を張った司令官コマンダンテの強烈なイメージが、ものすごい勢いで転写されていった。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『スモーキー・ビーンズ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。