「さっき戦争の話をしましたね、でも、戦争は起こっています。なぜ、人間は学習しないのでしょう。例えば児童ポルノを禁じたところで、戦争が起これば真っ先に死ぬのは子供たちです。真っ先に弱い者が犠牲になるのです。

またアマゾンに火を放ったのは明らかにおかしいでしょー。これはご存じですよねぇー、大統領黙認ですよー、広大な敷地ができますからねぇー。動物はどうです?彼らだって悲しんだり泣いたりします」

「あの、でも私に何の関係が」

と言うとメタタアコは振り返ってにたりと笑った。

「あなたは賢い人です。体力的にも色々な能力にも恵まれてる強い人間です。でもそういうのは、弱い者を守るために使われてもいんじゃないですかぁー。いまね、そういう人材が足りないんで、まあ、実験的恩赦ですがあちらをご覧くださいー」

と言ってメタタアコが横を向いた。そこには扉が三つ並んでいる。

「どうぞこちらへ」

導かれるままに扉の前に立った。一つ目のドアにはつたない字で「封筒は買っておいたよ」と書いてあった。二つ目に進むとこの陰気な部屋にはとてもそぐわない海の写真があった。

南国の海なのだろうか? エメラルドグリーンの透き通った水が強い日差しに光っている。

「なんですこれは」

メタタアコに聞くと、

「あーそこには気のふれた美人がおりますが、あなたの手には負えないでしょうねぇー。もうかかわらないほうがいいです」

三つ目の扉には予約済みと書いてあった。

「なんですこれは、三択じゃないんですか?」

「そうですね、今気が付きました。一択ですよぉー」

メタタアコが言った。

「あの、美人がいる部屋がいいんですが」

「この期に及んでまだそんなことを言いますか、だめです。返り討ちに合うだけですよおー、ぐああ」

メタタアコがまた発作を起こし、手足を振り回しながら恐ろしい形相で床に倒れぐるぐると回転した。だんだんと速度が速くなり、物凄い勢いになってから白目をむいてあおむけになって何回か回り、だんだんスピードが落ちて止まると、ゼイゼイ息を吐きながら机につかまってよろよろと立ち上がり言った。

「やってきたことをクリーンにしてからリセットです。基本でしょ。人間の世界でも裁かれるじゃないですか?」

「わかった、わかりました」

その恐ろしさに自分は叫んだが、それと同時にメタタアコはピタリと止まってガクンガクンと不自然極まりない動きで起き上がった。

「わかればいいんですぅー、その部屋なら何かあったら私も手伝えますしぃー。可哀そうな連中なのでね、優しくしてやってくださいー。問題が発生したら声をかけてください」

メタタアコがにんまり笑ってドアに手をかけた。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『猫座敷でまた会いましょう。』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。