五月なのにこの日は気温が高かった。彩さんはタンクトップに薄いカーディガンを着ていた。そして、やっぱり不良なのか、彼女の側にいると煙草の匂いがした。

「それじゃどうしようか。まあ今日は最初だし、すぐに勉強しなくてもいっか」

相変わらず彩さんは黙っていたが、拒んでいるふうではなかった。窓外はすっかり夜の(とばり)が降りて、月明かりに庭の()()無花果(いちじく)の木の葉が薄暗く照らされていた。

「いま、学校は行ってるの?」

僕は野暮な質問をした。彩さんはちょっと間をおいて、

「まあ、たまには行くかな」

僕の心をためした。

「そうなんだ。学校はどうなの? 楽しいの? つまんないの?」

「バカじゃねえの! 楽しいわけないじゃん」

「まあ、勉強するとこだからね」

僕はわかったような、口をきいた。すると彩さんは急に、にやにやしながら、

「あのさ、先生、やったことある?」

「え、何を?」

「決まってるじゃん。セックスだよ」

僕は、いきなりの中学生らしくない質問にどきっとした。

「まだ、ないよ……」

と小さく答えると、

「あ、そ。私あるんだ!」

僕は驚いた。

「え? 中学生で?」

「そうだよ。つい最近だけどね。親にチクらないでよ!」

彼女の突然の告白にどぎまぎしていると、彩さんはさらに詳細を話し始めた。

「相手は部活の先輩なんだ。嫌なやつじゃなかったから、奴の部屋に誘われて行ったんだ。そしたら、無理矢理、裸にされてセックスされちゃった。マジ、怖くて、どうしたらいいかわかんなくて。

ドキドキしているうちに終わっちゃったから、何もいいことなかった。ロマンチックどころじゃないよ。すごく痛かったし。これじゃ自分でオナってたほうが気持ちいいよ。先生だってオナニーくらいするでしょ?」

話が変な方向に脱線したが、僕は正直に答えた。

「まあ、男だったらみんなするんじゃないの」

「だよね! 変な話、ウチ、先輩にやられてからセックス恐怖症になりそう」

僕は何て答えたらいいかわからなかった。すると、彩さんは少し真顔になって、

「ウチのオヤジも外に女なんか作って楽しくやってる。男ってみんなエロいよね。先生だって、ほんとはウチとやりたいんじゃないの?」

予想外の言葉に僕はびくっとした。

「僕はそんなこと考えてないよ! 考えるわけがないだろ!」

彩さんは僕をからかっているように見えた。

「そんなムキにならなくていいよ。冗談だから」

「冗談でも変なこと言うなよ! 一応、僕は家庭教師なんだから」

でも、彩さんはもう笑っていなかった。

「ウチのオヤジも外に女なんか作って楽しくやってる。男ってみんなエロいよね。先生だって、ほんとはウチとやりたいんじゃないの?」

予想外の言葉に僕はびくっとした。

「僕はそんなこと考えてないよ! 考えるわけがないだろ!」

彩さんは僕をからかっているように見えた。

「そんなムキにならなくていいよ。冗談だから」

「冗談でも変なこと言うなよ! 一応、僕は家庭教師なんだから」

でも、彩さんはもう笑っていなかった。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『心の闇に灯りを点せ~不思議な少女の物語~』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。