この質問を単刀直入に家族全員に投げかけました。すると、はっきりした答えが即座に返ってきました。

「私たちは母に食の大切さを厳しく教えられて育ちました。生きることは食べることだと、母は言うと思います」

と。家族の目が真剣でした。その場で私たちは、リスクはあるものの、最大限安全に経口摂取ができるようサポートすることを家族に約束しました。

まず、内視鏡を用いてCさんの摂食嚥下の状態を調べるVE検査を実施しました。本来なら気道の蓋になるはずの喉頭蓋が漏斗状になり、むしろ食塊を気道に留める様子が確認され、誤嚥の危険性はかなり高いと判断されました。

次に、気道の吸引の問題がありました。Cさんは唾液などの口腔内分泌物の飲み込みが不十分で、それらが気道に溜まり、呼吸状態が時々悪化していたのです。適時に気道の吸引をすればその状態は改善し、誤嚥性肺炎の予防にもきわめて有効ですが、誰がその吸引をするかという問題が生じました。

気道吸引は医療行為と見なされており、この行為は基本的には医療職か家族にしか許されていません。しかし、施設に入所している関係上、二四時間家族が吸引を行うことは不可能です。

定められた講習を受ければ介護職も法的に吸引は可能ですが、今回はそんな時間的余裕はありませんでした。ただ、現状に尻込みしていても仕方がないので、とにかく家族や施設職員を対象に吸引の講習を行いました。

講習の最後に、緊急時は私たちが駆けつけることを約束したうえで、緊急時の気道吸引も含めて、生命や身体の危難に対する緊急避難的行為に関しては、誰が実施したとしても、その行為の正当性が刑法上保証されていることを申し添えました。

元々Cさんの入所している施設の職員は皆さん協力的でしたが、この講習後はなおいっそう一致団結して協力してくれました。

※本記事は、2021年1月刊行の書籍『生きること 終うこと 寄り添うこと』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。