高津の退職願に対して承諾し、最後に社長は言った。

「この年の瀬、寒空の下、やめてどこへ行くんだね。世の中、不景気でどこも雇ってくれないぞ」

とやさしい言葉をかけてくれた。

花とおじさん:第三話

帰路、無職となった高津は「同情するなら金をくれ」とつぶやいた。

借金に追われている身分なので就職先を探さなければならない。年末なので年明けに就職するとして正月は何かのアルバイトで食いつなぐために食事付きのアルバイトを探そうと思ってタウンワークを手にした。

すると、見開きにいきなり今、大人気のテーマパーク東京おとぎの国の求人広告が大々的に出ていた。年齢制限で職種は皿洗いだけに限られていた。さっそく電話するとOKだった。

「29、30が研修で31が夜7時から翌1日9時までのオールナイトでそのあと2、3日のバイトか。正月のため時給が割増の上、深夜手当てつきだ。これはいいな。それにしても、4日しか働かないのに2日も研修があるとは、さすがだな」

これで正月は食い繋ぐ事ができるが、その後の事を考えるとどうしても思いつめてしまう。

たとえ、仕事が見つかったとしても人間関係は大変だ。また、いつものように仕事も満足にできず、人間関係もうまくいかず、最後はいたたまれずに辞めるんだろうな。

負け癖は直らない。もうこの年でこの腰だ。同じ事のくり返しだ。あと何回卒業すれば本当の自分にたどり着けるんだろう。いや、もう無理だ。どうするんだバカ津。自分の事を自分でバカ津と呼んだ。

「バカ津、これからどう生きる」

自問自答しても答えはない。寒さも手伝って腰が痛くてたまらなくなった。食い繋ぐためには、ストーブに入れる灯油を買っている場合ではない。ふとんに丸まった。あのつらい仕事を辞めた事で気楽になるはずだったが、この先の事を考えると、圧倒的な絶望感と自己嫌悪に襲われてきた。

さらに、トイレに行こうと起き上がろうとすると、腰に激痛が走ったがやっとのことで立ち上がった。あの幸せな数日間に比べギャップがあまりにも大きすぎる。

♫さよなら大好きな人♪

高津は今夜も泣いた。この不安な夜を乗り越える為、結局、酒の力を借りなければならなかった。

高津は酔っ払った。絶望の淵の中で、酒の力なのか、花ちゃんの声が聞こえたような気がした。

「おじさん、頑張って。私の分まで幸せになってね。被害者意識を持っちゃだめよ」

そんな声に高津は何だか一人じゃないような気がして安心して眠った。

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『花とおじさん』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。