彼女に恋はしない

『小学生だったことは覚えているけど、勉強してたこと以外なんも覚えてねーや』

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そんなことがあるのか? 僕は友達でもなかったクラス全員の名前も知っていれば、誕生日だって言えるっていうのに。血液型だって言えるっていうのに。体育祭で何の曲で、どんな振り付けで踊ったかも覚えているのに。

どうして僕にはこんなどうしようもない記憶ばかり残っているんだ。いつになったら忘れるんだろう。睡眠薬が効いてきて、僕はまどろみの中に入り込んだ。

――……上村君。可愛かったな。仮に彼氏がいなくても、もしも彼女が僕の恋人になってくれても、僕の記憶力がある限りきっと上手くはいかない。

諦めろ。始めるな。可愛い子が僕の第一号のお客さんだった。その思い出だけでいいじゃないか。これでいいんだ。いい日だったな。ありがとう。おやすみなさい。城間葉月さん。だけど、

僕はこの夜眠ったことを後悔することになるなんて想像もしなかった。

不具合

健ちゃんと僕は同じ芸術総合学科だけど、例外なく得意不得意は誰しもが作品に明確に表れる。僕は記憶力だけが優れているだけじゃなくて元々手先は器用な方だ。

でも、どうやらコレは苦手らしい。

第一回の3D作品発表会で、飾られたギャラリーを昼休みを使って健ちゃんと一緒に歩いてつくづく痛感した。

「優のフィギュア、プロレスラーみたいになったな」

健ちゃんは僕の3D印刷したフィギュアを手に取って不思議そうにしていた。

「うん。引き締まった水泳選手みたいなのが完成するはずだったんだけどね」

僕は健ちゃんから僕の作った男性フィギュアを受け取って、強そうな太い脚と、盛り上がった肩の筋肉を撫でた。

「確かに、そんな感じの完成図提出してたよな。どこでミスったんだ?」

「パソコン上でデジタル原型設計した時だね。システムあんまり理解してないから時間なくって修正できなかった」

「プログラミングの授業の記憶抹消されてんの?」

「抹消まではいかないけど、そもそもあんまり記憶できてないね。僕なら手で作った方が早いし上手い」

「ラーメンかよ」