「家」とは何でしょう?

いうまでもなく、『生活は環境と共にあります。それまで、我が家では家事をしたり、趣味のことをしたり、家族とのんびりくつろいだりして過ごしてきました。環境が変わると、同じ生活を送ることはとても難しくなります。「やること」や「見るもの」は環境の中にあり、環境の中で私たちは生活をしているからです。私たちの生活は、生活の舞台となる環境と、深く結びついています。生活環境を考えることは、生活そのものを考えることにもなります。』(1)

そもそも「我が家」とは何なんだろう? 前述したように、「我が家」から家族が抜けていくに連れ、「やること」や「見るもの」、そして人との社会交流などの環境が変わっていきます。また、自分ができないことが増えていくに連れ、あるいは、自分が認知症を患ってしまった場合、元気だった頃の住環境にいるとはいえ、それが現在の自分に適した環境とは思えない状況が生まれます。

そのような時に住み替えの意味が生まれるのだと思います。住み替えられる方が、住みやすい「家」、「終の住処」にしたいと思える家作りをしたいと考えました。

環境が大きく変わるとは

環境が大きく変わることを、外山先生は著書『自宅でない在宅』の中で「5つの落差」と呼び、その落差がお年寄りの生命力をしぼませてしまう、と述べています。

『1) 「空間」の落差:あまりにも自宅と違う大きな空間、生活の場と言いながら、まるで大病院のような、まっすぐの長い廊下、その廊下に沿って並んだ多床室。そのような空間に、ある日突然連れてこられた認知症の方が、混乱しないはずはない。

2) 「時間の落差」:職員が働きやすいように決められた日課に、ご自分の日課を合わせなければならない。

3) 「規則」の落差:生活の場なのに規則だらけで自由を奪われる。

4) 「言葉」の落差:年長者として遇する言葉遣いなどをしてくれない。

5) 最大の落差:「役割」の喪失:スタッフに全てを委ねてしまい、何の役割もない。』(2)

このような落差を念頭に入れて、環境変化の衝撃を和らげるにはどうしたらいいのでしょうか。
 

※本記事は、2021年1月刊行の書籍『安らぎのある終の住処づくりをめざして』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。