その後、T病院事業部長は、既に病理解剖の承諾をいただいているのであれば、その後の新しい情報というか、誤薬投与の可能性もみんな話して、病理解剖の承諾を再度頂けるならば、それで行ったらいいじゃないか、との趣旨の指示をしたので、K副参事は、同日午前9時半前頃、都立広尾病院の事務局長室に電話を入れた。

その場にいて電話をとった庶務課長はK副参事から「これまで都立病院から警察に事故の届け出を出したことがないし、詳しい事情もわからないから、今からすぐに職員を病院の方に行かせる」旨の連絡を受けたので、待ってないとしょうがないですねとH事務局長に伝え、H事務局長も「そうだね、とりあえずそれまで待ちましょう」と答えた。

そして、同日9時40分頃、対策会議が再開され、前記9名の出席者にK副参事の電話の内容が伝えられたので、被告人を始めとする出席者は、最終結論は、病院事業部の職員が都立広尾病院に来てから直接その話を聞いて決めることとし、それまで警察への届け出は保留とすることに決定したので、医師法第21条にいう、

「医師は、死体……を検案して異があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」

旨規定する24時間以内、すなわちD医師がAの急死を確認して死体を検案した二月十一日午前10時44分から24時間となる二月十二日午前10時44分が経過してしまった。病院事業部のK副参事が都立広尾病院に到着したのは、午前11時過ぎ頃であった。
 

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『死体検案と届出義務 ~医師法第21条問題のすべて~』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。