陽炎の姫はいつ着替えたのか……綺麗な巫女装束に変わっていた。顔からも二本の赤い太い線が消え、美しい白い肌がその美貌をよりいっそう際立させていた。陽炎の姫と正対するかたちで、闇の巫女が正面に座った。陽炎の姫はゆっくりと言葉を嚙みしめて話を始めた。

【関連記事】「出て行け=行かないで」では、数式が成立しない。

「私は以前、人でしたが魔界のものに体を喰われ、瀕死の状態で陽炎族の長に助けられた。野狐の体を仮宿として、生き延びた。そして修行のため旅をしている」

頷きながらも闇の巫女は、遠い空間を見ていた。

「私も以前、人でした。巫女でしたが魔界のものに襲われ絶命しました。天狐族の姫様に助けられましたが……見てください」

と言うと立ち上がりおもむろに上半身を露わにした。

白い肌とたわわな二つの乳房にも絡みつくように縄状の赤黒い痣が、上半身からおそらく下半身まで伸びているのだろうと想像がついた。

「この痣は、魔境の証。私は生贄として、この魔境神社の結界の外には一生出られない定め。そして、残された魂は天狐族の力によりかろうじて正気を保っている」

闇の巫女の体は、魂の揺らめきか黄金色に発光を始めた。

「いつの日かこの呪縛から私を救ってくれるものを待っているのですが……」

陽炎の姫はゆっくりと立ち上がると、数歩歩み寄った。三度変化したのか、一糸まとわぬ姿になった陽炎の姫は、自らの身体に真紅の炎を灯した。

「これが、陽炎族の証。この人の姿は所詮まやかし、今となってはこの人の体がいとおしい」

と両手で闇の巫女の体を包んだ。

「陽炎族の守りで魔界の毒と共生できるようにあるものを封印してあげよう」

ほんの一瞬だが姫からは獣の臭いがした。だが、闇の巫女はすぐに自分も魔物の臭いがするのではと考えて恥ずかしさがこみあげてきた。

「しばらくこのままでいて……すぐ終わるから」

と陽炎の姫は、より強く体を密着させた。二人の乳房が重なった時。闇の巫女の乳房の谷間に一つの赤い炎の印が刻印された。闇の巫女は、顔を少し赤らめると伏せ目がちにした。