美代子はここまで話をすると、すっきりした気持ちになったみたいで、これまで一人で重苦しい思いを抱いていた荷物をやっと降ろすことが出来てほっとしていた。

「美代子は、三十の大台に乗ったのよね、年をとるのが早いね、いいことがあるから焦らないことよ」

と慰めとも又後が無くなったともとれる微妙な言い方をした。

「大台にはとっくに乗ってるわ」

「悪かったわね、年を思い出させちゃって」

「お父様にはこの件は内緒にね」

「分かったわ」

美代子自身、この日を境にしてこの問題を封印した。

美代子には後ろ向きの過去を振り返っている余裕はなかった。職場では、世界の貿易が拡大傾向になっていく中、輸出入の貨物取扱量が増えて、船会社の業務も手がいっぱい状態。会社も将来のことを考えて人員の増強には慎重だった。

そのしわ寄せが残業という形で美代子の身に降りかかって来ていた。入社して十年目を迎えベテランの域に達していたので仕事も責任ある立場になっていた。