テレビモニターには政研パーティーの壇上で一人の若い女性歌手が歌っていた。

「落ち目の総理でも、今日の政治資金集めパーティには、政治、経済、芸能のあらゆるジャンルの人が来ている……アツシ、お前知っているのか、あの女性歌手」

「あれは確か、5年ほど前から大人気の小こ早ばや川かわさくら、あああ! 菊池一等兵に似ている!」

二人は椅子に座った。

「とにかく落ち着こう」と視線を落としシマは云った。

「シマさんいや、浦総理、言っちゃなんですが、芸能のこと知らなさすぎですよ。今まで気が付かないわたしもなんですが……」

シマは自嘲気味に呟く。

「昔から興味のないことは、とことん知らないからな……そういえば、涼子のやつ戦況が悪化した時、しばらく休んで故郷いなかに行ってたな。過労かと思っていたが、実は出産だったんだな」

シマは部屋に備え付けの電話を取る。

「ちょっと、至急調べて欲しいことがあるんだが……」

ぼそぼそと口に手をかけシマは受話器越しに喋った。

「こういうとき、総理大臣は便利だな……すぐに調べてくれそうだ」

シマはそっと壁にかかっている受話器を置いた。

「そうですね」

「こうは考えられないか、我々は戦後日本の政治・経済・文化の発展のため、ひとつのバネになっていないか……」

シマは再び椅子に腰かけ、テーブルの上で指を組みゆっくりと語りだした。

「何がですか」

アツシは分からず問いただす。

「つまり政治は首相であるこのわたし、経済は一代で日本のトップメーカーにのし上げた豊日自動車社長のアツシお前だ、そして文化は高度成長期、多くの国民を励ましたあの歌手・小早川さくら……」

プルルルルシマはかかってきた電話を取る。

「うん……分かった」

「やはりな……」

シマは頷いた。

「小早川さくら27歳。これは芸名で……本名は菊池さくら。彼女は菊池一等兵と恋人のゼロ戦パイロットとの間に出来た子供だよ。その恋人は終戦直前に特攻で死んだそうだ。もう少し早く終戦していればという事だ……」

「あの時、何で来たのでしょうかね。TENCHI自身も目的は分かってなかったようですが……」

「誰かの意図で、この日本を竜宮城にするためかもな……」

暗闇のホテルの窓を観ながらシマは呟いた、窓越しに青白く光るUFOのような物体が浮かんでいる。それを見つめながら、シマは表情ひとつ変えずに煙草を吹かしている。

「未来人かな……」窓を背にしたアツシは、そっと帽子を取った。

「いや、未来のAI(人工知能)かもしれないな……」

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『浦シマかぐや花咲か URA-SHIMA KAGU-YA HANA-SAKA』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。