この、外国から来た、いまやカストロの革命軍の一翼を担うゲリラ戦術に長けた革命家は、腕を組み、鷹揚(おうよう)な態度でエンリケの話を聞いていた。住民たちは、家々の窓から息を潜めて通りの上で革命軍と対面しているエンリケの姿を見ていた。そのなかには、彼の両親もいた。

ドーラは、身も凍るような思いでその様子を見つめていた。彼女は、司令官がいまにも息子を射殺するのではないかと極度の不安と緊張におののきながら、身動きもできず窓辺に張りついていた。

すると意外なことに、ゲバラはエンリケの言うことを信じてくれた。そしてこの街は革命軍支持であることを認めて喜んだ。あまつさえ、彼はエンリケの手を取り、肩に手を回して彼を立たせてやりもしたのである。

「その瞬間でさえ、私はあの司令官が息子を撃ち殺すんじゃないかと思って心臓が止まりそうになっていたのよ」

 とドーラは言った。

だが、ゲバラはエンリケを殺さなかった。命が助かった喜びと、心酔する革命軍のヒーローと直に対面できた感激とですっかり有頂天になったエンリケは、ゲバラに両親に会って欲しいと言った。そして、この図々しい申し出を、ゲバラは快く受けたのだった。

その晩、民宿ドン・ロドリゲスはゲバラ小隊の一夜の宿となった。ドーラが料理の腕を振るい、ホセ・ベルナルドは革命戦士たちが心地よく過ごせるようこまめに動き回って彼らをもてなした。彼らはすっかり喜んで、夜通し革命の進展などについて家中の者に話して聞かせた。

次の朝、夜が明けるころ、誰よりも早く起きたエンリケは、そのときにはすでに民宿の中庭でマテ茶を飲んでいたゲバラを見つけ、その隣に行った。

「僕も、革命戦士になりたいんです」

青年は、輝く目を司令官に向けて、そう言った。

このとき、ゲバラは彼を止めようとはしなかった。エンリケの目の奥に燃えている炎が、彼には見えたのだろう。生半可な気持ちで言っているのなら、彼はきっとこの若者を止めたに違いない。だが、どうやらエンリケのなかには、カストロやゲバラのなかにあったのと同じ種類の炎が燃えていたようだった。

司令官(コマンダンテ)は、それを見抜いたのだ。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『スモーキー・ビーンズ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。