「なんで笑うんだよ」

「さっきリンクで見てたらジャンプの度に大きな声を出していたから」

「仕方ないだろう。声が出ちゃうんだから。ところで名前は?」

「一条翼」

「俺、小学5年生」

「一緒だ」

「そうか同じ年か。ノービス選手権は出るの?」

「まだスケート始めたばかりだもん」

「始めたばかり? あんなに跳べて……」

「コーチに教わるのは今日が初めて」

「そうなんだ。とにかく同い年だし、よろしく」

再度、手を出す健太。仕方なく手を握る翼。握手できて嬉しそうに笑う健太。

「翼、そろそろ行くわよ」

「はい、それじゃ。伊藤君」

「健太でいいよ。じゃあまたね」

「ううぉー」

と叫んで走って出口から飛び出していく健太。それを見て2人は顔を見合わせて笑う。

第二話 それぞれの挑戦 4

横浜の市立学校に通っている翼。男女40人のクラスで1時間目の国語の授業を行っている。

1番後ろの席で寝ている女の子がいる。翼だ。隣の席の金子由紀が、翼をゆすって起こす。目をこすりながら起きる翼。

「翼、次、私たちの列が朗読しないとならないから」

「ありがとう。何ページ?」

「45ページ」

と教科書のページを見せる。

「ありがとう」

「翼、スケート大変? 最近、授業中よく寝てるよね」

と少しあきれ顔で言う由紀。

「朝早いから眠くなっちゃって……それとすぐおなかがすいて、何か食べたくなる」

「大丈夫?」

「でも楽しいんだ」

と明るい顔で話す翼。

「様子見てればわかるよ」

2人が話をしているのを見て先生が

「おい、授業中だぞ」

と叱る。首をすくめる2人。

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『氷彗星のカルテット』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。