男性が突然、くるくると手を動かし始めた。あたかも崩壊した建物が、フィルムの逆さ回しで元に戻るかのように色が揃っていく。

華は息を呑んだまま呼吸をするのを忘れた。あっというまに六面が完成した。

「す……ごい」

思わず呟いてしまい、首をすくめる。ふふふ、と男性が嬉しそうに笑った。

「じゃあね。ありがとう」

そう言い残して、華に背中を向けると歩き始める。その後ろ姿を、華は呆然と見送った。男性は振り返らなかった。

振り返らず、角を曲がって見えなくなった。

我に返って、華も遅れて駐車場を出た。通りの先を見たが、もう男性の姿はない。なんだか夢でも見ていたような気分だ。

こういうのをなんというのだっけ? 昼間見る夢……。そうだ、白昼夢、というんだった。

ボガンッ! 突然聞いたこともないような凄い音と共に、コンクリートの地面がかすかに揺れた。華は足を止める。

なんだ、今の音? 再び歩きだしたものの、妙な胸騒ぎがした。あの音は家のほうからしなかったか? そのうちに、風にのって焦げくさい臭いが漂ってきた。

どこかで誰かの声がする。何かわめいているようだ。声は、バクハツと言っているように聞こえる。

バクハツ。爆発。

確かにあの音は、何かが爆発したときの音みたいだった。華は歩きながら、気が付くと男性との会話を頭の中で再現していた。

心がほんわかと暖かくなっている。生まれて初めて感じるような暖かさだ。

今さっきの光景を、華は何度も思い返した。

男性の嬉しそうな笑顔や言葉、そして彼の手の中でみるみるうちに、まるで魔法のように色が揃っていったルービックキューブを。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『空虚成分』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。