寄り添うということ

最初に病院で留置されていた細い胃管、自宅療養へ移行後、私たちが入れ換えた太い胃管、この両者の違いは何でしょうか? 

胃内に胃管を留置するという行為はまったく同じです。しかし、その意図、あるいは目的はまったく異質なものであると考えられます。

前者の細い胃管の留置は、胃の内圧上昇を防止するための、言うなれば治療のための行為です。当然、絶食が基本です。それに対して、後者の太い胃管の留置は、食物を食べたいという患者の切実な思いをかなえるための行為です。

医師が腸閉塞の患者に経口摂取を許可するとは何たることか!とお叱りを受けるかもしれませんが、これこそが「寄り添う医療」の実践であると私は考えます。

ここでは私が在宅医療にかかわりはじめた初期のころの体験を紹介しましたが、この体験は「寄り添う医療」とは何かということを、実体験として学ぶことができた貴重なものとなりました。

自分の行為を治療的なものとしてとらえるのか、あるいは寄り添い的なものとしてとらえるのか、その意識の違いによって、結果はまったく違ったものとなります。しかも今回のこのケースにも当てはまりますが、このような行為は医師にしか認められないものです。看護師には今回のような行為は許されません。

私は在宅医として、今後もこの「寄り添う」という行為を医師の立場から最大限拡大していきたいと思っています。

※本記事は、2021年1月刊行の書籍『生きること 終うこと 寄り添うこと』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。