戸外(そと)を見ると、さっきより雨脚が強くなったみたいだ。窓越しに見える庭の樹木や草花から雨が勢い良く滴り落ちていた。遠雷はすっかり聞こえなくなった。
森田さんがまた何か言おうとしたとき、居間のドアが開いて大塚夫人が入ってきた。
「ごめんなさい、遅くなってしまって。彩も連れて来ようと思ったんですけど。本人が嫌がって……。まあ、コーヒーでもどうぞ。あと、これいただきもののクッキーですけど。よろしかったら召し上がって」
「すみません。どうぞお構いなく」
対応慣れしている森田さんはそつなく応える。
「ほんとは彩にも挨拶させたかったんですけど。なかなか親の言うことも聞かなくて」
「そうですか。いまが一番難しい時期でしょうから」
二人のやり取りに僕が軽く頷(うなず)いていると、
「あなたにはご迷惑をおかけすると思いますけど。何とぞよろしくお願いします」
と、改めて夫人に懇願された。
「あ、はい、大丈夫です。がんばります!」
僕は明るく答えたが、大塚夫人は申しわけないと思ったのか、
「何かあなたに厄介なことを押し付けるようで、親としてはずるいんですけど。ほかに頼る人がいなくて……。何かお困りのことがありましたら、何でも仰ってください」
夫人は、精一杯誠意を示した。
「わかりました。そのときはよろしくお願いします」