明日からまたつらい仕事だ。高津はずっと華奈を追憶し続けた。

♫あの娘が、消えちまっちゃったよー。あの娘が、消えちまっちゃったよー。幸せになれよと言われたのは僕の方だったよー♪

こう歌うと涙が止めどなく流れてきた。

「花の命は短くて苦しき事のみ多かりき……くそー」

と枕をぶん投げた。

「かわいそうすぎる。なんで、あんな明るくてかわいい娘が……。俺が死にゃよかったんだよー」

ふとんをかぶって泣き叫んだ。

♫さよなら大好きな人ー。さよなら大好きな人ー。まだ大好きな人♪

次から次へと歌が出てきた。

♫あなたがいた頃は、笑いさざめきー。誰もが幸せに見えてきたけどー。人は人と別れて、後で何を想う……♪

歌う度に無限に涙が出た。酒をあびる程飲んだ。翌日、高津は、夜勤で国道維持工事の現場にいた。昨夜、飲みすぎて体も頭も働きがにぶい。しかも、その日の日勤でマンホールの鉄蓋を交換する為に、ダンプへ積み上げる作業中、ぎっくり腰をやった。

夜勤に穴をあけられないので、腰の事は隠し通した。そして石削オーバーレイの舗装工事が始まった。当現場での舗装作業の高津の持ち場は、アスファルト合材を敷き均した際、粗い部分にふるいをかける事だった。

締め固めをするための大きな鉄輪のマカダムローラーが初期転圧を行なう前にふるわなければ、冷えてしまって合材がなじまない。

しかし、当日の合材は、粗いところに目つぶしするための細かいゼロがやけに少なく感じ、粗いのがやけに目についた。さらに現場を照らす投光器の当たった部分は、昼間よりも顕著だった。

高津は、何とか仕事で戦力になりたかった。少しは認められたかった。仕事のできない者がやる仕事だが、一生懸命、汗をかき、息をきらせて頑張った。

しかし、いくら走っても走っても、マカダムはどんどん前進してくる。ふるいが間に合わない。フィニッシャーもどんどん進んでいく。

高津はいい仕事をしたい一心で、マカダムの後ろに回って間に合わなかった部分にふるいをかけに行った。マンホール回りが残っていたので、しゃがんで、鉄蓋と合材のジョイント部にていねいに手でゼロを入れていった。

マカダムが後進して来ているのは知っている。マカダムが踏む前にここだけどうしても終わらせたい。

ジョイント部完了。そう、ホッとして立ち上がった瞬間、腰に激痛が走った。

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『花とおじさん』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。