高津は救急車を呼んだ。救急車が到着するまでの間、さらに高津は懸命の人工呼吸をくり返した。

「誰か花ちゃんを助けてくれー」

高津は絶叫した。その大声に驚いたアパートの住民がかけつけ、大さわぎになった。高津はとり乱し、バラの花束を壁に何度も打ちつけ、アパートの廊下は修羅場と化した。

サンタクロースの格好でとり乱す高津、散乱するバラと死体。何か事件性をにおわせていた。猟奇的な光景であった。やがて救急車が到着した。救命隊の救命活動も、病院の処置もむなしく、結局、華奈は帰らぬ人となった。

高津は華奈の携帯電話を手がかりに、友人から親類へと連絡した。自分のような者と一瞬でも暮らしていた事は華奈の名誉に傷がつくと判断したので、単なる、第一発見者、第一通報者という事で、事後の処置は警察に任せた。

警察は高津に対し、一時は殺人容疑をかけ、警察署に拘留したが、救急隊の証言と病院の担当医師の判断でなんとか警察署を出てアパートに帰った。

また一人になってしまった。

吉田拓郎の『祭りのあと』とは、こういう心理なんだ。あまりに楽しすぎる事があると、それが去った後のむなしさ、寂しさは半端じゃない。

華奈の私物は、警察に預けたので、バラで散らかった部屋と、食べずにかたすみに置いてあるクリスマスケーキがよけいに寂しかった。それ以外、あの楽しい夢のような数日間を物語るものは何もない。