その日の夕刻七時に池袋駅の、いつもの待ち合わせ場所の改札口で美沙と翔一郎は会い、しばらく歩いて、気に入りのパブに入った。

「悪かった、昨日は。あまりに突然だったよね」

と、翔一郎が切り出した。

「わかっていたわ。三井君がフランクフルトに赴任するって聞いた時の貴方の顔は、ようし俺も行くぞって顔をしていたもの」

「さすが美沙ちゃん」

とすぐにおどけるので

「調子に乗らないでね、だからって、いきなりお義母さんと同じ扱いはないわ」

「ごめんごめん、でもね、多分あの形の方がおふくろは簡単に承諾すると思ったんだよ」

「なるほどね、そこまで考えていたのなら許す、と言いたいけれど、もっと簡単に考えていたわよね」

美沙はビール一杯目で酔ってしまうので、気持ちは楽になっていたようだ。

※本記事は、2021年1月刊行の書籍『アンのように生きる インドにて』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。