インド派遣

片山美沙は都内の公立中学校で国語の教師をしていた。夫翔一郎は埼玉県の小学校に勤務し、その年の在外教育施設派遣の試験を受けていた。二人は結婚して六年になるがまだ子供がなかった。

家庭は翔一郎の母親との三人暮らしである。翔一郎の母信子も教員であったので美沙が勤めることに協力的で家事の殆どは信子が受け持っていた。

傍目には美沙は気楽で幸せな嫁だったが、美沙にとってその家庭はまだ自分の城ではなかった。

翔一郎はそれを感じ取っていた。一人息子の自分と母信子との関係はどうしても密になり、言葉にはできない、プレッシャーや寂しさを美沙に感じさせていると思っていた。

そんなところに、彼の学生時代の親友三井がドイツのフランクフルト日本人学校に派遣されたと知らせをうけ、そんな制度も知らなかったことに衝撃を受けて、悶々とする日々を年度始めにもっていた。