いや、もしも健ちゃんの言ったとおりに彼氏がいて、ソイツとのノロケ話になったら嫌だし記憶したくもない。それにしてもかわいかったなぁ。声も落ち着いた感じの質なのに、一生懸命僕に話しかけてくれて、優しそうで、今、この瞬間も会いたい。

だけど、心に誓った。彼女に恋はしないと。もし、失恋なんかしたら僕のメンタルは終わる。何もかも未練になって苦しむ羽目になる。

健ちゃんはずっと友達でいてくれると言ったから今のところそうであってほしいと願うことしかできないけど、失恋は怖い。失うものが多すぎる。だから始まる前に終わっていてよかったんだ。

僕は紙に描いた円から、葉と三日月の形をハサミで切り取り二つに分けた。二つが合わさると円になる。題名は見て文字の通り葉月。

今日彼女が耳にしていた可愛らしい花のイヤリングと、葉のモチーフは似合うだろうし、三日月は満月と違って太陽の光を全部浴びてない状態で暗闇を照らす優しい光。

城間さんと彼氏のどっちがどっちを着けるかはわからないけど、どちらがどちらを着けても二つを合わせれば美しい円になる。円満だ。明日このデザインでもいいか相談してみようか。

僕はスケッチブックの新しいページに想像した葉月を描いて、月に一度、心療内科で処方されている一日分の睡眠薬を飲んで、ベッドに入った。

小学生になった時も中学生になった時も、高校に入った時もそうだった。大きな環境の変化に僕は弱い。特に睡眠は一番乱れる。記憶と睡眠は密接な関係にあるらしい。

何かソコに原因があるのかもしれないけど、医者は僕の脳をレントゲンで見て異常なしと言った。それからは医者はあまり信用してない。そのくせ薬の力だけは信じているなんて、僕は結構嫌な奴なんだと思う。

小学生になった頃も、しばらくは環境に慣れず緊張していた。そのせいで休み時間にトイレを済ませても授業中何回も尿意が襲ってきて、心配してくれる先生ならよかったけど、僕を簡単にイジメの対象にする先生だった。

それもあって同調した同級生から記憶から消し去りたいほど酷い嫌がらせを受けた。僕はそれを忘れられない。誰だってイジメを受けたら忘れられないだろうけど、僕の記憶力は桁違いだ。この記憶力は一種の執着なんじゃないかと思ったこともあった。

歳を重ねていくごとに記憶力の良さだけが僕の取柄で弱点だとわかった。中学に上がった時に、同級生はもう小学一年生やそこら辺の記憶を、ほとんど覚えてなかったし、高校に上がった時は隣の席で話をしていたグループが衝撃的なことを言った。