あなたが本当に酔いから醒めたのはその時であった。あなたは首を振り、勢津子と美穂に同意を求めた。

「でもこんな時間にどうやって帰るのよ。もう電車もバスもないんよ」

あっけらかんと思いがけない返事が返ってきた。そしてどこをどうやって何処に来たのかも分からない外の闇が、どうしようもなくあなたを彼女たちの返事の中へ押し戻す。

彼女たちが手伝い、隣の部屋に屈託なく薄い布団が敷き詰められるのをあなたは眺め、立ちつくしていた。何事も起こらないと彼らを信じようとした矢先である。

弾けるように行動を起こしたのは若い田島孝介であった。彼らはすでに決めてあったのだろう、勢津子は一仙に、美穂は小村に、あなたは田島に、あっという間に組み敷かれた。

あなたは抗い、敵わないと知ると田島の腕に噛みついた。激痛と大量の出血はあなたの本気の抵抗を悟らせたようだ。彼はあなたの背中から傷ついた腕を抜かないまま、しかし片方の手で布団を頭から被り、あなたを抱きしめたまま動かなくなった。

両隣ではさわさわと布団が擦れ人の蠢く淫靡な気配が続く。勢津子と美穂の押し殺した鼻息と呻き声が切れ切れにあなたの躰を刺し、やがてすべての音が止んだが、田島はあなたを胸に抱えたままの姿勢を崩さない。

その胸に押し付けられて息苦しい鼻を呼吸をしやすいように僅かにずらせただけで、あなたも動かなかった。

少しでも動けば田島が再び野獣の本能を剥き出しにするのではないかと恐れたからだ。どろどろの疲労感に屈してうとうとした。

※本記事は、2021年1月刊行の書籍『となりの男』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。