ホステスたちの商売っ気の無い会話はママである美紀の耳にも届いているが何も言わない。美紀自身も少々横暴だが酔い客相手にいつも真面目にやってられるかと思うことがある。
そんなときは母の言葉を思い出して自分を戒める。
「美紀、水商売は媚を売る商売だ。多少途中で揉めても客が帰るときには自分から折れて、この店はあんたで保っているのよと縋るような顔で送り出すのさ。そうすりゃ、客は必ずまた来てくれる。男は女に頼られるのに弱いあほな動物さ」
智子はしたたかだった。
浜椿の咲く町【第16回】
書籍『浜椿の咲く町』より。小さな海辺の町で生まれ育った美紀。父の不倫、そして自殺と、幼少期に強烈な経験をした彼女は、亡き母の遺したスナックを継ぐことになった。客の相手をする中で美紀が独り言ちるのは――。
ホステスたちの商売っ気の無い会話はママである美紀の耳にも届いているが何も言わない。美紀自身も少々横暴だが酔い客相手にいつも真面目にやってられるかと思うことがある。
そんなときは母の言葉を思い出して自分を戒める。
「美紀、水商売は媚を売る商売だ。多少途中で揉めても客が帰るときには自分から折れて、この店はあんたで保っているのよと縋るような顔で送り出すのさ。そうすりゃ、客は必ずまた来てくれる。男は女に頼られるのに弱いあほな動物さ」
智子はしたたかだった。
伊勢志摩を舞台に綴られる、儚い女性たちの群像
小さな海辺の町で生まれ育ち、スナック「漁火」で働く美紀には小学生の頃の忘れられない思い出があった――。
心に傷を負い東京からやって来た奈美、男に騙され実家に戻った沙耶、2人の子どもを育てるシングルマザーの康代。
つましくも明るく暮らす人々の交流と人生の葛藤を描いた物語を、連載にてお届けします。