「お住まいはどちらなのですか」

「東春日井郡の新川町というところです。ここからは少しありますが、日曜日はこちらでお花の稽古があるので、そこから回ってまいりました」

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「お家は、どのようなお仕事なのですか」

「家は農家です。お茄子、里芋、かぼちゃ、いろいろなものを作っています。杉井さんのお家は?」

「私の家は静岡市で茶業をやっています」

「まあ。それでは、やはりお茶の畑を……」

「いいえ。茶畑は持っていません。お茶の葉っぱというのは摘んでもそのままでは飲めません。揉んで乾燥させて初めて飲めるお茶になります。私の家は農家からきた葉っぱを飲めるお茶にして小売りに卸すまでをやっています」

話題が軽いせいか、杉井の緊張も大分ほぐれてきた。

「家がお茶のお仕事だと、毎日美味しいお茶が飲めて良いですね」

「お茶だけは小さい頃から贅沢をしてきました。連隊のお茶は正直言ってまずくて飲めません」

杉井の言い方が面白かったのか、多恵子はくすくす笑った。

「それでは、お家ではきっと玉露のような上等なお茶ばかり召し上がっていたのですね」

「いえ。玉露は特に好みません。玉露というのは、他の煎茶とお茶の木が違う訳ではなく、育て方が違うのです。木に袋をかぶせて大切に育て、まろやかな味に仕上げるのですが、その分手間がかかるので、値段も高くなります。高いお茶なので、玉露と聞くだけで上等だと思っている人が多いのですが、私は、やはり煎茶で味わいのあるものの方がうまいと思います」

「まあ。知りませんでした。お茶もいろいろ勉強して飲まなくてはいけませんね」

その後、多恵子は、杉井の両親のこと、兄弟のこと、郷里静岡の様子など熱心に質問してきた。