企業における人材育成の本道は、どうすればもっとネズミが捕れるのか、その視点で教育することです。そのためには現場で仕事を一緒に成功させ、成功体験を共有してモチベーションを上げること。過去の経験、大先輩の指導からも、それしか方法はないと確信しています。指示だけ出して、報告してきたら、「そうか」だけで済ます、それでは彼らのモチベーションは上がりません。また企業実利だけでなく、その仕事の意味や効果といった大義名分まで共有したうえでの成功であれば、仲間意識の中で自ずと、「おめでとう」「よくやった」の言葉が出てくるものです。

もう一つのOJTの重要性は、手続きの仕組みと観測指標を決め、辛抱強く定点観測する習性を身につけることです。工場管理の場合は、Pチャートなどのグラフに当たります。「正常」の定義づけがないと「異常」は判定できません。そのことは、工場だけでなく事務管理部門でも同じです。仕組みを守らせる躾、それを前提とする定点観測、これらを徹底することにより、徐々に職場の感度が上がってくるのです。

不思議なもので、大脳皮質だけの思考にはどこか欠陥があります。昔ながらの見る、聞く、触る等の五感が発動することによって大脳皮質の欠陥を補うことができるのです。それは日本独自の知恵でもあり、まずは五感を使えと指導する理由がそこにあります。感度が上がると、仕組み自体の有効性や定点観測項目の有効性に疑問を感じるようになり、それを取締役に提案し、かつ仕組みを直せるようにまでなったら、もう立派な部門長です。人材育成に王道はありません。

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『インドでビジネスを成功させるために知っておくべきこと』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。