第二部 教団 第二章 報告 七

ところが、だ。宗教も大きくなってくると、それだけでは満足しない場合がある。自前の候補者を立てて、選挙に出る。政治力を確保したいと願う。昔の公明党と創価学会との関係がそれだ。

九十年代に事件を引き起こしたオウム真理教は、十分に大きくなる前に政治進出を狙って失敗し、ついにはカルト化した例だな。

実は華水教にも、政治への進出を狙っている気配がある。一年前の選挙で、片山先生の地盤は少しゆれた。実際あの大物の先生が、危うく落選するところだったろう。片山先生の地元では、華水教の勢力が強いのだ。今までは華水教は、先生を応援していたのだよ。後援会の有力なメンバーに幹部も名を連ねている。

選挙の時には、ビラを配る。あのビラにはよく推薦人の名前がたくさん印刷されているね。その名前の中に、戸隠仁聖という名前が書いてある。いわずとしれた華水教の親玉の名前だ。ところが、戸隠仁聖という人物が、これまた謎の多い人物だったのだ。ほとんど誰も会ったことがない。華水教の幹部に聞いても、「いや、信者の中にも知っている人はいないんじゃないかな。会ったことがあるという知り合いもいませんよ」というのだからね。写真一枚ないし、なんだか神棚の奥にでもいるような感じでね。

「じゃあ、僕の会ったのはいったい誰なんだい、確かに幻ではなかったぜ」

風間が言うと、村上は笑った。

「まあ、最後まで聞けよ。長くなったが、そろそろ終わるからな」

前にも言ったように、片山先生の地盤は去年大きくゆれた。その理由は華水教が片山支持を止めて、独自候補者を立ててきたからだ。もちろん、それだけで華水教の候補者が当選するわけではない。だが、まとまった票が減るから、候補者にとっては死活問題なのだ。

ところで、華水教に応援を頼んでいるのは、片山先生だけではない。片山派の代議士は、かなりの人数が華水教の集票力を当てにしている。だから、選挙後になって票の分析をした時、みんな青くなった。もしかしたら、華水教の機嫌を損ねるようなへまをして、票をたてに恫喝されたのではないかと思ったからだ。

だが、そんな気配はない。それどころか片山先生に詫びを入れてくる始末で、政治献金もしてくる。みんなほっとした。

そこへ突然起こったのが、今度の不正献金疑惑だ。それも、調べていくうちに正友という男の背後から華水教という名前が飛び出してくる。なんだか気味が悪い。まだ、明らかにはなっていないが、実は片山派の代議士の相当数に献金が渡されていると思われる……いくらぐらいだと思う。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『百年後の武蔵野』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。