ある時、金之助がSに、自分は静のことが好きだと打ち明けた。Sは悩んだ末にこう答えた。

「個人主義でない者は馬鹿だ」

すると金之助は

「僕は馬鹿だった」

と言った。

二人はよく個人主義の話をしていた。個人主義は万能で、あらゆる辛いことや、うまくいかないことを解決してくれる思想だった。そして、恋に関しての個人主義の答えは、個人主義者は個人主義の人と結婚するということだった。それが二人の結論だった。そして静は、女学校に通う当時の平均的な知的女性の一人であるにすぎず、残念ながら、真の個人主義者ではなかった。

この、金之助が打ち明けた話は、静に聞かれていた。

※本記事は、2020年2月刊行の書籍『令和晩年』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。