「あのねぇ、文学とか芸術の天才というのは、創造性を導くんです。例えば落ちていく林檎に悲しい話や音楽をのっけた場合、林檎はただの赤ではなく血の色、そして悲しみの象徴になります。これが文学的あるいは芸術的天才ですぅ。

ですがね、数字とか計算式をのっけてしまうとそれは、絶対的なもの、真実になるでしょう? それが理数学的天才です。まあそれによって便利な発明が引き起こされたり、芸術も広がって、人の心が豊かになったりするんですよぉ。それはいいんです、よいことです」

ふんふんとうなずきながらメタタアコが言った。

「はぁ」

「でここから核心に入りますので、よく聞いてください。天才にもカテゴリーがあると言ったでしょ。でも人を不幸に導く天才もいますよね。ヒットラーとか」

「ええちょっとまって、あなたヒットラーの関係者なんですか?」

「そこまでは言いませんが、私IQが百八十ありましてねぇ」

「まさか、そんな」

「本当なんですよ、ひどい頭痛もちでしたが、記憶力だけはよくて。でまあ、私の名前からもわかるように両親は平凡というか、かなりおめでたい家庭でぇ、政治家になれとか、弁護士になれとか大騒ぎでした」

「なんでです?」

「儲かると思っていたのですよ」

「そんな乱暴な」

「まあ、でも私も両親が好きだったものですから、何とか期待に応えようと思いまして、勉強のほうは心配なかったのです。たいして勉強しなくても学校では常に一番でしたしぃ。でも弁護士とか政治家とかいうのは世間を知らなくては駄目じゃないですかぁ。それでね社会勉強しなくてはとホストクラブに行きました」

「なんでハワイからアラスカに行くような真似を?」

「どっちがハワイで、どっちがアラスカですかぁー?」

「いえ、温度差の問題です」

「まあ、私が行ける範囲内で調べてそこが一番濃かったんですよね。実際、扉を開けたら別世界でぇー」

「そらそーでしょ」

「まあそこでね、素敵な人に会いまして、でも免疫がないものですから、トイレに立ったところでいきなり抱きしめられましてビックリして思わずカイザーナックルでぶん殴ってしまいましたあー」

「カイザーナックルってなんでそんなもの持っているんですか? それにさっきあなた彼氏って言いませんでした? 向こうは業務でしょ?」

「はい、今は反省しています。彼の善意というか労働意欲を無駄にしてしまった。それで、天罰てきめんというか、返す刀でちょうど運ぼうとしていたビンで殴り返されました。それがこれですぅー」

メタタアコは自分の頭にあるビンを指さした。

「事情はわかりましたが、なんでヒットラーが介入してくるんです?」

「それしか見当たらないんですよ。私がこの役に選ばれた理由がぁ~。つまりもし将来、政治家なんかになっていた場合、とんでもない方向に行ってしまうとかね」

急に考え込んだ顔でメタタアコが黙り込んだ。自分は何と言っていいかわからないので黙っていた。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『猫座敷でまた会いましょう。』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。