そのときです。

「しずかに!」

お姉さんがひと声ほえたとたん、犬たちはいっせいになくのをやめました。

『わっ、すごい! お姉さん、かっこいい!』

ワンワン、ワン…。

ぼくは、しっぽをふりながら、お姉さんにむかってほえずにはいられませんでした。

ところが…。

ガンガンガン!

ぼくの耳もとで、とんでもなく大きな音がしました。

ぼくはびっくりして、いっしゅん、ほえるのをやめました。

『な…なに? 今の音、なんなの?』

ぼくは、すぐにまた、ワンワンほえました。すると…。

ガンガンガン!

やっぱり音がして、ぼくをだまらせてしまいました。

それは、お姉さんがかかえている、バケツのなき声でした。

ぼくは、すっかりほえる気がしなくなりました。

ほえるたびに、バケツになかれちゃ、うるさくてたまらないからです。

そこでぼくは、ハッと気がつきました。

『ああ、ぼく、ほえちゃいけなかったんだ! うるさくほえたり、ないたりしたから、すてられちゃったんだ!』

ク~ン…。

犬たちがつぎつぎにやってきて、しょんぼりしているぼくのにおいを、かいでいきました。

『ようこそ!』

犬たちは、お姉さんをチラチラ見ながら、れいぎ正しく、ぼくにあいさつをしてきました。

『よろしくおねがいします!』

ぼくも、お姉さんをチラチラ見ながら、犬たちにあいさつをかえしました。

『ぼく、もう、なかないよ。ぜったいに、ほえたりしない。やくそくするよ』

ぼくは、こころの中で、かたくちかいました。