二 日本文化と世界

4 心のセイフティネット

人の生活に密着する食べ物や飲み物は、なくてはならないものとなってくると、こだわりが生まれる。

中国のお茶は白青黄黒赤の五種の色に分かれ、それぞれの色は多種多様。その種類は数えることができない。

嗜好品であった茶は、北宋の頃、とみに発達し、鎌倉時代に禅宗と共に日本に伝わったとされる。室町時代の末には村田珠光によって茶を嗜む作法が生まれるのである。堺の豪商は茶と一椀の調和をとりながら、人間関係を構築し、価値観を共有する高い精神文化をめざした。

織田信長や伊達政宗などの大名は外へ外へと目を向け、茶道具でも渡来の品を珍重し、文化のグローバリゼーションが生じるのである。千利休は小さな茶室から、恒久的宇宙観を描く世界に入り、形式、即ち型というものを作り出す。日本の文芸の頂点の一つの時期といわれる室町時代に生まれた能は、作品を掘り下げ抽象的な型を生み出していく。

中国の人はよく「お茶をしましょう」と言う。親しく、楽しくお茶を共にしながら情報を交換し、悠久のひとときを持とうとするのである。まず心を開いて話し合うところから始まることが大切であると思っているからに違いない。

日本の能楽、茶道、その後、明治時代に確立した柔道においては、型から入り、礼儀を重んじ、その高みを極めるのを本分とする。人は一人では生きていけない。実態生活と精神の調和がとれないと歪みが生じるのは自明の理だ。社会システムは茶の湯や能楽のように、みんなで共感できるのが望ましい。

茶道の棗(なつめ)に「藻塩(もしお)」という中興名物の逸品がある。茶碗に「松風」という銘。これは古今集の行平の歌「わくらばに 問ふ人あらば 須磨の浦に 藻塩たれつつ 侘ぶとこたへよ」――配流された行平と松風・村雨姉妹の美しくも儚い、能『松風』の主題の歌である。

心の広がりと人の情感。現在いわれている「心の豊かさ」はこういうところにあるのかもしれない。

※本記事は、2018年11月刊行の書籍『世を観よ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。