ボリスとナターシャが接近してきたのは、明らかに仲間に入れる目的だった。彼らは私が講演で公表できるよりもっと多く金融戦争について知っていることがわかっていた。

ロシアにいる彼らのクライアントはこの秘密を私から聞き出すために喜んでカネを支払うという。ボリスとナターシャはズバリ提案してきた。秘密情報がロシアに流れるのはカネのためであり、単純なことだ。

私はCIAの防諜部にこれを報告するつもりであったが、できるだけ情報を集めるため、引き延ばすことにした。

「そうですねえ。そのことは考えてみようと思います」

と私はボリスに言った。

「今日お答えすることはできません。名刺お持ちですか? あるいはあなたに連絡できる何かはありますか?」

彼はポケットから名刺を取り出し、私に手渡した。この漫画みたいな話を仕上げるかのように、その名刺は赤い紙に印刷されていた。あのロシアとピッタリ合う色だ。

「有り難うございます。連絡致します」

と私は言った。

「お会いできて感謝しています。私どものクライアントは本当にあなたに会いたがってます。連絡をお待ちします」

私は最後にナターシャがもう一度「大金ですのよ」と言うか、半ば期待したが、彼らはバーを去り、それが彼らとの会合の最後だった。

CIAの関係者は全員、外国人との接触があれば直ちに報告をするように義務づけられている。秘密取扱許可を維持するために膨大な書類を作成する作業はこの仕事の外から見たステイタスの魅力を減じるものかもしれない。それでも報告の義務は目的達成に役立ち、真剣に受け入れられている。

私はこの遭遇を彼らの外観の描写を含め事細かく外国人接触報告に記載し、名刺を添えてセキュリティ管理官に提出した。これでおしまいだった。防諜部門の管理官の手元に移ったのである。