初対面の相手にストレートには言いにくいことだけれども、橘子はおもいきって尋ねてみた。清躬さん、清躬さんと、その名前ばかり言うし、年格好(としかっこう)もおなじくらいだから。

いきなり直截的(ちょくせつてき)な言葉が飛んできたためか、相手の女性は少し気圧(けお)されたように一瞬言い淀んだ。

「えっ、いえ、その──」

言いにくそうにそう言った後で、こう続いた。

「そんなふうに言っていいかどうか……」

やっぱりはっきりしない言い方だ。橘子はむずむずした。

「言っていいか」って、そういう人任せみたいな態度は清躬くんに失礼じゃないの。

「──いえ、なんでもありません」

棟方さんは小声でつぶやきながら、眼を逸(そ)らせた。橘子はおもわず腕を拱(こまね)いてしまう。つくづく變(へん)な人だとおもった。

一見容姿身なりがとても整っていて、凄(すご)くまともそうだから余計に調子が狂う。清躬の戀人と想定すると、棟方さんは極めてお似合いという感じがした。

橘子からみると、清躬はおとなになってもあまりかわらないでいてほしいとおもう程、本当に素敵な少年だった。

実は、かれが引っ越した後、高校一年生の時に一度会ったことがある。

その時は、随分背が伸びていてびっくりした。小学生の頃、橘子は背が高いほうで、清躬より大きいくらいだったが、それが逆転して清躬のほうが高くなっていた。小学生時代のおもかげがまだ充分に残っていたから、背丈だけ意外に感じたのだ。

あれから更に四年の時が経ち、もう二十歳(はたち)も過ぎた今、完全におとなになったかれがどんなふうにかわったか、知るのが少しどきどきするのだが、しかしきょうここに棟方さんのような綺麗な女性を眼にし、かの女が実際に清躬の戀人だとすると、本当に二人はお似合いだと感じられる。

そして、そのことはとりもなおさず、清躬が今も昔のイメージとかわらずにいて、棟方さんとつりあうようなりっぱな青年になっている証(あかし)であるようだ。

橘子は心から喜ばしくおもった。世の中一般によくきくのは、子供の頃のイメージがよい程、おとなになるとすっかり變貌(へんぼう)して昔の印象が裏切られるという話。

そのように、身近に感じていた人がすっかりかわって、昔のよいおもかげがなくなってしまったりしたら、淋(さみ)しいものだとおもう。だから、棟方さんを知って、そこから今の清躬が昔とおおきくはかわっていないのだろうと推察できるのはよかった。