奉公

結衣はおさきにぼろ布を集めさせ、そして折ったり重ねたり生地を組み合わせたりして雑巾作りに励みはじめた。

針と糸で布に細かく縫い目を入れることで強くすることができるとわかると、いろいろと工夫を重ねた。四角い渦巻状や菱形に細かく縫うことなどによって絞っても型くずれしにくい雑巾を作り出した。さらに糸の色を替えて艶やかさにも工夫をこらした。

結衣は、おさきとふたりで古着をほどいては雑巾を作り続けた。そして「結衣文様」として数々の縫い文様を編み出した。文様が出来上がると他の女中衆も加わって大量の雑巾を作り、村の行事や寄り合い、祭り等の手伝いのおれいに女子衆に配った。これが評判となり、村娘の好奇心を誘い、感性と美意識を刺激した。競って文様をきれいに仕上げ、出来を競い合うようになった。

結衣の伊助を見る目は大きく変わりはじめるとともに、いつしか伊助にほのかな恋の炎を灯していた。しかし結衣には九右衛門家の跡継ぎとしてこの家や村を担っていくという役割があり、身分違いのかなわぬ恋であることは承知していた。

結衣は伊助に、今も我儘なお嬢様だと思っているのか聞いてみた。

すると微笑みながら、「俺はお嬢さんに出会えて良かった。今だから言えるが、なぜかお嬢さんにああしろ、こうしろって言われても苦じゃなかった。かえっていじらしくてかわいかった。そんなばかくさくて天真爛漫なお嬢さんが好きだ。今に嫁にもらいてえくれえだ」と言った。

その一言で結衣の胸は熱くなり、いつしか涙があふれてきた。

「だけど百姓衆や杣人衆だけでなくこの村の女、子どもの暮らしを豊かにするためにはお嬢さんの力が必要だ。お嬢さんはそういう役目を背負って生まれてきたんだ。だからそのために力を尽くさなきゃあだめなんだろうな。俺は遠くから見守ってる」

結衣は、長い間寄り掛かっていた心の心張棒が外れた思いがした。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『ゑにし繋ぐ道 多摩川ハケ下起返物語』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。