「桔梗。おまえは私の娘の桔梗だな……」
「はい」と言い娘も男に近寄った。

男の目からは、とめどなく涙がこぼれ落ちていた。娘との再会に喜ぶ男は、腕を娘の肩に回して強く抱きしめた。

その力は、最初はやさしく、次第に強く、さらに強い力で抱きしめた。たまらず、「苦しい……」と闇の巫女が男の手を離そうと抵抗を始めたが、男は異常なほど力を強めてきた。

体が軋む音がする。その時、闇の巫女の全身から黄金色の光が放たれ始めた。男はようやく力を緩めた。

「力ある者よ、この男の魂を解放しろ。そして、二度とこの地を訪れないことを約束しなさい。この男の娘を想う気持ちに免じて……」天空の満月の力と相まって、闇の巫女の輝きは最大限に達した。

「この男の魂をどうするつもりだ?」と力ある者は、悶え苦しみながら吐き捨てた。

「この男が魔界に取り込まれるのであれば、娘としてどんなことをしてでもその魂を助けねばならない」と言い放った。闇の巫女は、祝詞を唱えその全身を黄金色に輝かせ、力ある者と対峙しようとしていた。その姿は神に等しい存在にも見えた。

「苦しい……。分かった、この魂を解放する。この俺の魂も解放してくれないか?」
「まずは、男の魂を……そして、力ある者。あなたの魂は私と共にここに残れ。本来の役目を共に果たすのだ」

いつの間にか闇の巫女の足元には白い子狐が座っていた。闇の巫女は白い子狐を胸に抱き上げると、男の魂を天界に解き放った。

巫女はいつになくすがすがしい顔で、満月を見ていた。白い子狐も巫女に抱かれ天空を見上げていた。

「雪のように白い子。だからあなたの名前を、雪と呼ぶね」
 

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『眷属の姫』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。