二 日本文化と世界

3 女神のありがたさ

年を経るごとに新幹線並みの速さで年月が過ぎ去って行く。ああ! もうすぐ大晦日とお正月だ。

初詣に行く人々で各地のお寺や神社が賑わう。数多くの神社仏閣の中で、二〇一三年特に注目を浴びたのが、伊勢神宮、そして出雲大社だ。

伊勢神宮と出雲大社。いずれも二〇一三年が遷宮の年だった。本殿から、神様を仮殿に移す。伊勢神宮の本殿は、木材、それから社殿の中の御簾などもすべて新しくなり、神様のお帰りを待つ。建造が済むと、神様は本殿にお戻りになる。伊勢神宮では二十年に一度の建造、出雲大社では六十年に一度の大修造の大仕事だ。

宮大工は木だけで社を建てる。たとえば、仮に社が誰にも顧みられず放っておかれてしまったとしても自然に朽ちて土に埋もれていくのだ。何かが後に残って、周りの環境に害を与えることはない。

建造や修造に使われる木は、その目的だけのために大切に育てられ、祭事によって清められる。それを匠の技で組み上げていく。

宗教で敬われるのは神様だけでなく、遷宮を取り巻くことから、いかに日本人が自然を思いやり、敬ってきたかが解る。

よく、日本人は「無宗教」だと言われるが、これらの神社が人々の話題に上がるのは、宗教が昔と変わらず、今も日本人の精神的な柱のひとつになっているからと言ってよい。神様を心の中に置いた祭りは、楽しみながら神と人々が結び付くきっかけだ。

さまざまな宗教の世界観は、人々の倫理や死に向かう姿勢に大きな影響を与える。たとえば、仏教の極楽と地獄。神道では、非業の死を遂げた人を神とし、敬うことで魂を鎮める考え方がある。これも日本人ならではの思いやりと言えないだろうか。

古い時代の宗教観からは、日本人の考え方の根源が見え隠れする。伊勢神宮に祀られているのは「天照大神(あまてらすおおみかみ)」。太陽を象徴する女神だ。

神の言葉を基に政治をしていた倭国の王は、中国の歴史書によれば「卑弥呼」という女王。天照だけではなく、古事記には他にも沢山の女神が登場し、生き生きと動き回る。

女性には、次の世代に繫がる生命を守り育てる力がある。どれほど強い力を持った国でも、この力が無ければ一代の短い間に滅んでしまうだろう。このことを、大昔の人はよくよく解っていたのではないか。神話に登場する女神様を見ていると、そんな気がしてならない。

まさしく、ありがたや! かたじけなしや!

※本記事は、2018年11月刊行の書籍『世を観よ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。