こちらを見上げ大口を開けて剣山のような牙をガチガチと鳴らした

どこかで見たことがあると思って急いで図鑑を調べたところ

デボン紀に栄えたダンクレオステウスという魚にそっくりだった

ダンクレオステウスがアラレ好きとは知らなかった

アラレの匂いに誘われて

水たまりの深いところから浮かび上がってきたのだろう

水たまりの底は時間の流れもない深海につながっている……

飢えたダンクレオステウスは

餌を待ちきれずに他の魚に食いつこうとするが

図体ばかりでかくて動きが鈍いので逃げられてしまう

気の毒に思い

一抱えもある古い陶器の壺を投げ込んでみた

ダンクレオステウスは壺に頭からつっ込み

巨大な顎でバリバリと食った

嬉しそうに食えば食うほど

それは蒼く澄んだ水に映えていっそう哀しげに見えた

家の向かいはまだ宅地造成中で土が盛り上がっているだけだ

その向こうはただ一面の空 ヘブンズ・ブルー

手を伸ばせば届きそうでしかし永遠にたどり着けないブルー

私と盛り土の間にできた水たまりは

果てしなく広い幅六メートルの海

※本記事は、2021年1月刊行の書籍『哀しみの午後の為のヘブンズ・ブルー』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。