1.生物模倣工作とは

どんなものか

江戸時代までの日本の生活用品は手作りで、それが日本独自の文化と強く結びついていると言っても良い位に洗練されていたように思えます。

しかし、明治以降の西欧化の波に流されたためか、我々は社会生活における便利さとスピードを優先し、作るのに手間のかかるものが持っている良さを忘れてしまっているような気がしてなりません。

特に動きが伴うもの、例えば扇子や小田原提灯のようなものを新しく創り出そうという流れが感じられないことが気になります。

人の心を汲んでくれるような動きをする生活用品の良さを思い出し、現代の技術レベルを維持しながら、これを現代版ものつくりとして復活するのがこれからのものつくりの課題の一つと考えています。

そのきっかけになればとして本書で提案するのが、動きを伴うものを生み出せる生物模倣工作ということになります。

後ほど詳しく説明しますが、本書で言う生物模倣工作は、軽量で小型であるにもかかわらずあたかも使い手の心を読んでくれているかのように振る舞ってくれるものを作ることです。

目的は動きを伴う便利なものを幅広く実現することです。

椅子に座ったまま手と指先だけでものが作れ、作ったものがあたかも命があるかのように振る舞ってくれれば、職業や老若男女を問わず人は心地好さを感ずるはずなので、単調な日常生活の中にも前向きな新しさを加えることが出来るでしょう。

生物模倣工作は、使って楽しく、人にあげて嬉しく、しかも夢のように便利なものを誰もが作って楽しめるものですから、物事に対する考え方が前向きになります。

また、未だ世の中にない機能の取得を目標にするので、出来たものは自分しか持っていないという満足感も与えてくれます。

当然ながら、ものは上手く作れれば楽しい訳ですし、手工品なので人に進呈すれば喜んでくれますし、結果自分の心が豊かになるというメリットもあります。

作ろうと思ってから完成形が得られるまでの時間はそれなりにかかりますが、一度出来てしまえばコピーの製作にはそれ程時間もかかりません。工作レベルの加工精度で十分なのです。

材料費も大半がワンコイン(500円)あれば十分なので、プレゼントとして使っても余計な気遣いをされる心配がありません。

実際に使ってくれて、「マジック? こんな簡単なことにどうして気付かなかったのだろう!?」と言って喜んでくれた人もいました。

現代では忘れられつつあるものつくりの魅力を再発掘出来るような気がして来ます。