これら外部組合は、自らの勢力拡大のために、企業経営者のすきを突いて従業員の組合化を図ります。米国のUAWと同様ビジネスであり、同時に有力な政治団体でもあります。

組合員がUAWに金を払って、その見返りに賃上げを勝ち取るといった構図とインドの外部組合の活動は同じだといえます。まさにハリアナ州マネサールとラジャスタン州ニムラナでは、日系企業が外部組合の餌食になった事例があるのです。

しかし、外部組合の社会的必要性は、労働人権を守らない事象の多発なのでしょう。私自身も、自社における労働争議に対応した経験があります。

労働争議を起こした企業の中には、東証一部上場企業の子会社もありました。ニムラナ工業団地では、警告を発すべく2回ほどセミナーを開いたものの、外部組合の侵入でストや操業停止に追い込まれた在ニムラナ企業もありました。

人材育成に対する姿勢

外部組合の介入でトラブルに陥るのは、親会社である日本企業の規模の大小に関係がありません。つまりはインドに子会社をもつ以上、そのリスクは回避できないのです。

かといって回避策がないわけではありません。では、いかなる企業がその難を逃れているのか、その難を逃れる方策はどこにあるのか、つき詰めるところ、人材に対する価値観と人材育成に対する姿勢に尽きるのではないでしょうか。

マルクスが、その書で悲嘆したように、商品としての人の能力に正当な評価を与えていないということこそが、インドの日系企業における労働争議の要因の一つではないか、私はそう考えています。

インド工科大学デリー校のトップの初任給(年額)は2000万円を超えるのが当たり前です。優秀な人材への報酬には、それなりの相場があるのです。

戦国武将であった武田信玄の言葉、「人は城、人は石垣」こそが、経営者の持つべき人材の捉え方を示す至言であろうかと思います。

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『インドでビジネスを成功させるために知っておくべきこと』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。