刑事部長の思惑……。

〝日本でトップの国立大学法学部を首席で卒業した森下賢一、この男はただの秀才ではない。人を見抜く洞察力と直観力、そして長けた判断力……この男は必ず私の出世を後押しするだろう……〟

それは、県警本部での事件解決の実績、そして警視庁に戻ってからの活躍……それは、ノンキャリアを見返す事が出来る者だと考えていた。しかし、ノンキャリアがキャリアを妬んでいる訳ではない。

ただ多くのノンキャリアが思う事……。

〝キャリアは現場を知らない……短い時間で、当たり障りなく出世していくだけだ!〟

刑事部長は、そのノンキャリアの叩き上げ連中を、賢一が黙らせることが出来ると考えていた。

「私はキミに期待しているんだ」

刑事部長は、椅子から立ち上がると賢一に歩み寄った。そして肩を叩くと言った。

「キミは私の直属だ。この調子で頑張ってくれたまえ」

「はい」

「キミの活躍は、私の活躍でもある……分かるね?」

「もちろんです。何度も言いますが、私は刑事部長有っての私です」

それを聞いて、刑事部長は微笑んだ。

「しかし、まさか捜査二課を希望するとは……私は捜査一課で頑張ってもらいたかったのだが……」

「何事も経験が大事だと思っています。刑事として多くの経験を積むことで、さらに刑事部長のために働けると信じています」

「そうだな、優秀なキミの事だ、どこに行っても関係はないな」

「いえ、自分はそれほどの人間ではありません。所詮、努力しか出来ない人間です」

それを聞いて、刑事部長は苦笑した。

「頑張ってくれたまえ」

「ご期待に応えられるよう頑張ります」

賢一は、そう言って頭を下げ、敬礼すると刑事部長の部屋を後にした。

賢一は歩きながら思った。

〝これからが夢を叶える時……そう、その時がやって来た〟

そう思い、笑みを浮かべると捜査第二課に戻って行った

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『アリになれないキリギリス』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。