境内に博覧会のパビリオンのような建物がある。入ってみると、「カフェ」と表示している。

ソフトクリームを食べたくなり注文。しかし、五四〇円は高いのではないか。

「御布施代込五四〇円」と表示してくれれば、まだ納得できるのだが。

テーブルが百脚もあるのにカフェと呼んでいいのか、むしろ食堂ではないか。胸中のモヤモヤを女房にぶつける。

「ねえ、向かいのテーブルのカップルは、カツカレーを食べているから、ここは食堂だよね」

「でも、パリの紅茶の老舗『ダマンフレール』のグールース・ティーというのが、メニューに載っているよ」

「カフェかな…」

眼を隣のテーブルに転じる。

「ほら、あのオジサンを見て。おしぼりで、腋の下をゴシゴシ拭いている。こんな客がいるということは、やっぱり食堂だよね」

「コーヒーを注文する時、【kɔ'ːfi】と発音していたよ。それに『TIME』っていう雑誌も読んでいるし」

「カフェかも…」

でも、カフェで、数珠を販売するかなぁ。まぁ、カフェかどうかは、言った者勝ちの世界なのか。僕の行きつけのラーメン屋も、大将に確認すれば「もちろんカフェだよ」と答えるかもしれない。

そろそろ帰る時間が迫ってきた。そういえば、我が家は、代々浄土真宗西本願寺派だ。その本山に参拝できたので、なんとなく親鸞聖人ともお近づきになれたような、なれなかったような。なんとか極楽往生できそうな気分になり帰路に着いた。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『サラリーマン漫遊記 センチメートル・ジャーニー』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。