アメリカ“ドル”の支配を覆そうとする中国とロシアの動きを解説し、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙でベストセラーとなった話題作を伊藤裕幸氏が完全邦訳した『AFTERMATH 金融クライシスから財産を守る7つの秘策』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を編集・抜粋して紹介します。

恥の殿堂

この恥の殿堂の裏切り者達によりもたらされたアメリカの安全保障上の被害は計り知れない。これによる惨害は技術上の情報の漏洩だけではなく、ロシアや他の諜報共同体で派遣していないことになっている場所で活動するアメリカのスパイを暴露される結果になった。

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これらの者が後に処刑ないし、拘禁されると、彼らが提供してくれたはずの重要な情報が将来にわたり入手不能になるのだ。この損失は更に将来の人材採用を困難にする。

恥の殿堂は背筋をゾクゾクさせるものであり、回廊を通りすぎて、アメリカの防諜オペレーションの中心に達しても長く忘れることはできない。ロシアスパイと私の忘れられない遭遇は強烈な茶番だったが、油断できないものだった。

それは2009年1月26日マイアミのフォンテンブローホテルでのことだった。その日私は午前9時から「地政学特別講演」という題目で、約千人のヘッジファンドや代替投資のマネジャーを対象に基調講演をすることになっていた。

これはその年で最も注目された投資会議で、2008年の金融パニック直後のことであり、しかも市場はまだ底を打っていなかった。会議のプログラムには副論題として、注目される「中国とロシア」、それに「イラン、北朝鮮との緊張関係」が掲載されていた。

フォンテンブローホテルは1954年にオープンし、セレブの建築家モリス・ラピダスによりデザインされ、アメリカ建築界の崇拝の的になっている。最もよく知られた特徴は、明るく白い半円形の形状で柔らかなアーチを描いたメインの建物で、ホテルのプールと大西洋を見下ろしていた。

フォンテンブローはフランク・シナトラとラットパックにとって出発点になる場所で、1950年代に彼らがマイアミに行けば、ここで活動していた。私にはフォンテンブローはこの時が初めてだった。

このホテルは1964年のジェームズ・ボンドの古典的映画《ゴールドフィンガー》のオープニングシーンで見て以来、40年もの間私の想像の中で大きくそびえていた。

映画のシーンではショーン・コネリー扮するボンドがホテルでゴールドフィンガーによるイカサマカードを見破る。その続きは今も印象に残っている。私はいつかはレジャー目的でフォンテンブローに泊まろうと心に決めていた。