正直、この取引がうまくいって私も内心ホッとした。これで私の店も救われる。画家ピエトロ・フェラーラも有名になって絵も高く売れる。一石二鳥だった。

『そうか、気に入ってもらえて良かった。私の望みなど、たいしたことではないが、まあ、会長のせっかくの仰せだからひとこと言わせてもらいましょうか。第一に、画家ピエトロ・フェラーラを大いに有名にしてやってほしい。いや元々、駄目画家などではない。君も見ればすぐわかる、凄い絵を描く男だよ。

今度、絵を持ってくるからぜひとも見てくれたまえ。第二に、二百万リラを用立ててもらえまいか。これは支度金だ。第三に、今後ピエトロ・フェラーラの絵は全て、ギャラリー・エステに取り扱わせてもらいたい。

最後になるが、これは私のほんの小さな夢。先日話したように、将来、自分の店をフィレンツェで一番立派な店にしたいんだ。今後、ロイドさんの格別なご配慮をいただきたい。そのご威光とご支援があれば、将来は間違いなくフィレンツェで一番になれますからな』

『それだけか? 良く分かった、そのことは全て約束しよう。ところで、フェラーラ夫妻とは話がついているのだろうな? これは養子縁組みなどではない。ユーレなどという名の娘は初めからいなかったということだ。それに、二百万は口止め料だよ。だから間違いなく全額をフェラーラさんに渡せ。分かるかね?永久に何もなかったのだ。親としての正当の権利など一切ないことはもちろんのこと、親であったという事実さえ葬り去るのだ。私とフェラーラさん共々だ』

『何の問題もないさ、エドワード。もらい子の件は間違いなく永久に秘密にさせる。彼らが約束を反故にすることなど絶対にないはず。この世界であんたに睨まれれば生きていけないことは必定だからな』

※本記事は、2020年8月刊行の書籍『緋色を背景にする女の肖像』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。