おじさんは、ぼくのからだをあっちこっちさわりながら、しきりにうなっています。

ふと見ると、おばあさん犬のいた巣には、白いユリの花がおかれていました。

おばあさん犬のにおいは、ついさっきまで、そこにいたことをおしえています。

『どこなの?おばあさ~ん』

ク~ン、ク~ン……。

ぼくは、ユリの花を見ながら、はなをならしつづけました。

「おまえにも、わかるのかい……?」

青いふくのおじさんが、少しかなしそうなかおで、ぼくのあたまをなでてくれました。

ぼくは、ハッと気がつきました。

『あっ!おばあさん、死んじゃったんだね?』

ワンワン!

ぼくはおじさんに、そうほえてみました。

『きゅうに、きえちゃうなんて!さよならする間も、なかったよ!』

ウ~、ワンワン!

「よしよし、すっかり元気になったな」

おじさんは、まんぞくそうにうなりながら、どこかに行ってしまいました。

『ぼくも、いつかきゅうに、きえちゃうのかな。だれにも、さよならする間もなく…』

ク~ン、ク~ン……。

『死ぬって、こわい。すごくこわいよ』

ぼくは、おばあさん犬のにおいにつつまれながら、ひとりぼっちで丸くなりました。

 
※本記事は、2020年10月刊行の書籍『ソウル・テール だれも知らない、オレたちのじゅもん』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。