第二  前記D医師が、Aの死亡に関し、その夫であるCから保険金請求用の死亡診断書及び死亡証明書の作成を依頼され、死亡診断書及び死亡証明書作成の職務を行うに際し、D医師らと共謀の上、Aの死因がヘパリンナトリウム生理食塩水と消毒液ヒビテングルコネート液を取り違えて投与したことによるものであって、病死および自然死ではないのに、死因を偽って死亡診断書及び死亡証明書を作成し、右Cに交付しようと企て、平成十一年三月十一日頃、D医師において、甲病院で、行使の目的をもって、ほしいままに、死亡診断書の「死亡の種類」欄の「外因死」及び「その他不詳」欄を空白にしたまま、「病死および自然死」欄の「病名」欄に「急性肺血栓塞栓症」と、「合併症」欄に「慢性関節リウマチ」等と記載し、死亡証明書の「死因の種類」欄の「病死および自然死」欄に丸印を付する等した上、それぞれ、「都立広尾病院整形外科」の記名のもとに、D医師と署名し、その名下にD医師と刻した印鑑を押捺して内容虚偽の死亡診断書及び死亡証明書を作成し、同月12日頃、千葉県××C方において、同病院H事務局長をして、これらを右Cに交付させ、もって、公務員の職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書を作成して、これを行使したものである。

(証拠の標目)省略

(弁護人の主張に対する判断)弁護人の主張は多岐にわたるが、その主なものについて検討する。

第一 判示第一の医師法第21条違反の事実について

弁護人は、医師法第21条における異状死体の報告義務は、死体を検案した医師が負うものであるところ、D医師は死体を検案したこともなければ、被告人がD医師らと共謀したこともないのであるから、被告人は無罪である旨主張するので検討する。

一.被告人の公判供述、検察官調書、証人D医師の証言及び検察官調書謄本

証人J副院長の証言及び検察官調書、証人(同病院H事務局長)の証言及び検察官調書、証人I医事課長の証言、F看護師の検察官調書(不同意部分を除く)及び警察官調書(不同意部分を除く)、G看護師の検察官調書(不同意部分を除く)などの関係各証拠によれば、次の事実が認められる。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『死体検案と届出義務 ~医師法第21条問題のすべて~』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。