「結婚されてから何か問題はありましたか?」

「今まで1人分だった夕食を2人分作らなければならないのが負担です。車を運転していても考えているのはおかずのことばかり。事故にも遭いましたし、電信柱にも3回ほどぶつけているんですよ」

一つ大きな溜め息をついたあと、Jさんは話を続けました。

「そんな中、娘が生まれ、家族3人になったら家事もやる量が増えて、余裕がなくなり感情の起伏が激しくなり、娘に怒鳴り散らすことが多くなりました。他に忘れ物も多く、お喋りで衝動買いも多くて困っています」

Jさんは、自己中・マイペースといった特徴を持つ自閉スペクトラム症を併せ持ったADHDでした。そして、一番近くにいるお子さんがその症状の被害を受けていたのです。

環境が変わることで、Jさんの症状が悪化していきました。このようなケースは珍しくありません。実は、彼女のように結婚したあとに家事などの仕事量が増え、自分のキャパシティを超えてしまったため、ADHDの症状が顕著になるケースは多く見受けられます。

もし、Jさんと同じように、環境が変化して突然イライラするようになったり、忘れ物が多くなったり、衝動的な行動が増えたりしたならば、いずれ落ち着くと放っておくのではなく、発達障がいの合図かもしれないと考えるようにしてください。

早速、JさんにADHDの治療を始めることにしました。薬による治療が功を奏し、徐々に症状は落ち着いてきました。

「娘に怒鳴り散らすことがなくなりました。買い物も我慢しています。夜の寝つきも早く、朝早起きできるようになり、朝の掃除など段取りがスムーズになりました。もちろん、服薬してから交通事故は1回もありません」

そして、本人だけでなく、娘さんも明るくなり、素直になったそうなのです。

「そんな姿を見ると、今まで本当に申し訳なかったと反省しています」と涙ぐみながらJさんは語ってくれました。

Iさんのような、発達障がいで悩んできた本人たちだけでなく、Jさんの娘さんのようなその家族にも、精神心理的・社会的な苦痛があることがうかがえます。

私は、発達障がいの治療には、症状のある方だけでなく、その人物を支えている人の緩和ケアも必要なのではないかと考えています。

※本記事は、2018年10月刊行の書籍『新訂版 発達障がいに困っている人びと』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。