興味津々なのは、佐藤だけではなかったようだった。

病室にいる患者のほとんどが耳をそばだてていて、先ほどから二人のやりとりをそれとなく窺っている。

大島が運び込まれて来たのは、昨夜遅くなってからである。

消灯時間はとっくに過ぎていたし、何やら慌ただしい気配があったこと以外、どういう患者なのか、連中は全く知らなかった。若者であることに気づいたのは、朝になってからだろう。

静まり返った病室に、佐藤の声だけがやけに大きく響いた。

「新聞には、町はずれの田んぼでマムシに咬まれたと書いてあった。星を見ていたんだって? 怪しいな、デートでもしていたんじゃないのか」

佐藤の目が笑っている。

大島はそっぽを向いたまま、苦虫を噛みつぶしていた。

「まあ、何が起こってもおかしくない時世だが、マムシとは全く恐れ入ったよな。痛かったんだろうな、咬まれたときのお前の顔が見たかったよな」

「俺をからかいにきたのか……」

大島は、佐藤を睨みつけた。

「お前のそういう顔は刺激的でいい。だいたいお前はまぬけなんだよ、ぼけっとしているからマムシなんかに咬まれたりするんだ。新聞には会社の名前こそ伏せてあったが、会社の名前が載ったりしてみろ、会社が世間のいい笑い者にされるんだぜ」

「………」

「でも良かったよ、町のすぐ近くで咬まれて──」

隣にいる患者が口をはさんできた。

二人のやりとりを聞いているうち、心を掻き立てられたらしい。

「これが山の中だったら、それこそ命取りになりかねない。不幸中の幸いだね」

五十前後の、体格のがっちりした男である。

患者はベッドにゆっくり起き上がると、それまで読んでいた週刊誌を枕もとに置いて、あらためて二人を見た。

それから、これはかなり以前のことだと断わった上で、マムシに咬まれて命を落とした老人の話を穏やかな口調で語った。

この老人は、山へ竹の子を採りに行ってマムシに咬まれたのだという。

「老人は手先を咬まれたというから、おそらく竹の子と間違えてマムシに触れたらしいんだな。竹の子の中には、細くて赤紫色をしたコサンという種類のものがある。マムシの色とよく似ているので、触れた途端、それがマムシだったというわけだ。老人は手当てをしなかったし、山を降りた途端、急に意識がなくなった。病院へ運ばれたときはすでに手遅れだったという」

「それ、いつ頃の話?」

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『青二才の時間の幻影』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。