私は友人にすすめられるがままに、吉原の資料がある棚へと足を運んだ。

【古今東西遊女の歴史】【輪廻転生秘話】【情死した者たちの末路】【江戸色事指南】

「……ずいぶんあるな」

その手の知識が皆無な私は無難な本を数冊選んで友人のもとに戻った。

「本当に当たり障りのないものばかりだな」

「仕方がないだろう。専門外と言ったじゃないか」

「まあ、いいと思うがね」

「それなら放っておいてくれよ」

「まあまあ」

友人は不貞腐れる私を窘(たしな)めると一冊の本を棚から取り出した。

「『水蜜桃の花雫』……?」

どうやらこれは江戸時代に実際に起こった出来事を綴(つづ)ったものらしい。パラパラと捲(めく)ってみると最後のページに涙ぐむ遊女が湖に入っていく様子が描かれていた。

「これは……」

その姿があまりにも綺麗で私は食い入るようにその挿絵を見つめた。

「心中に失敗して旦那だけ先に亡くなったんだ。江戸時代では情死は御法度だからね。その遊女は散々罰を受けて心も身体もズタズタになってしまったんだ。それで二人で心中を図った場所で入水自殺をしてしまうんだ」

「そうなのか……」

よく見れば、髪も崩れ、着物も所々破れている。なんとも――哀れな姿だった。

だが、薄汚れた着物を身にまとい、乱れた髪を手櫛で直そうとする姿には憐れみと同時にいじらしさも感じた。

「内容、気になるんだろう? 暫(しばら)く貸すから読んできてくれたまえ。読み終えたら感想を聞かせておくれよ」

「……わかった」

本のこととなるところりと態度が変わる友人を横目に表紙を眺める。所々剥げたり破れたりしているのは年代物だからなのだろう。史実とは言っても多少のフィクションは含まれているに違いない。

後書きを読んでみるとやはりそう書かれていた。

※本記事は、2020年12月刊行の書籍『水蜜桃の花雫』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。