※本記事は、2020年10月刊行の書籍『喰い改めよ! あなたはあなたが食べたものでできている』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

アンチョビは地中海専売特許?

イタリア料理にはアンチョビが欠かせません。独特の風味があって、私も大好きです。

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アンチョビは、カタクチイワシを塩漬けにして熟成させたものです。日本では、これをオリーブオイルに漬け直して瓶詰にしたものをよく見かけます。

イタリアでは、アンチョビ本来の風味を楽しめる、粗塩で漬けただけのものが多く出回っています。そのままワインのつまみとして食べてもよし、ピザのトッピングやパスタソースの隠し味にしてもよし。なんとも香ばしくておいしいですね。

ところで、同じカタクチイワシでも、日本でとれたものはアンチョビとは言わないと、イタリア人は主張します。

「アンチョビと言っていいのは、地中海でとれたカタクチイワシだけ」

「なんで?イワシはあちこち泳ぎまわるんだし、どこでとれてもカタクチイワシはカタクチイワシでしょ?」

私が抗議すると、平然とこう答えます。

「いや、地中海のカタクチイワシは海流の関係で抜群に味がいいし、栄養価も高い。特別なんだ」

「でも、そのイワシだって地中海の外に出ることもあるでしょ?」

「いや、ない。ずっと地中海にいる」

「だれに聞いたの?」

「イワシに聞いた」

「…………」

ウイットあふれるこの返事に私は口をパクパクするばかりです。(こんなこと、イワシといていいのか?)

でも、私はそんなに権威付けしなくてもいいと思うのです。日本でとれたものでも、カタクチイワシの塩漬けはアンチョビと言いたいですね。