ヒップホップに導かれて渡ったアメリカで目にした、現実現代の「個」の在り方を問いかけるリアル・ストリート・エッセイを連載にてお届けします。

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2人の少年の死

ニューヨーク・ポスト紙の一面にこんな記事を見付けた。夜中に、消し忘れたと思えるタバコの火がその周辺のものに引火し、大火事が発生したという事件だ。

近所の消防士の男性が救助しようとその家の中に飛び込んだが、残念ながら17歳の少年、Steveだけが逃げ遅れ、命を落としてしまった。この事件はここサウス・ブロンクスのHunts Point(ハンツ・ポイント)で起きた。

この新聞記事では、この家族を救おうとした男性の活躍ぶりを中心に取り上げ、その勇敢さを讃えていた。私はHunts Pointの小さなCショップ“Hot Spot”に立ち寄った。そこのオーナーであるDとは友人なので、詳しい話を聞くことにした。

Steveは高校が嫌いで中退したが、最近ではGED(General Educational Development)のテストに合格してカレッジへ行こうと真剣に進路を考え始めていたという。GEDは日本における大検にあたる。

友人が多く、みんなから慕われていた。1ブロック先にあるグラフィティ・アーティスト、Tats Cru(タツ・クルー)の事務所を訪れると、そこには早速Steveの大きな顔写真コピーがあった。これからSteveの死を悼み、ストリートの壁に無料で肖像画を描くのだという。

ストリートの角に手作りの慰霊碑を見付けた。そこは彼の写真と寄せ書き、キャンドルや花束、Steveの黒いDu-Rag(ブレイズやコーンローなど、ヘアスタイルを維持するために頭に巻く布)などで埋め尽くされていた。

「私もここに書いていいかな?」

近くにいた少年に確認すると、

「もちろんさ。君もSteveのこと知ってるの?」

と。一度も会ったことはないが、私は静かに目を閉じ、この少年の悔しさや悲しみに思いを馳せながらペンを取った。

R.I.P. Steve

実はHunts Pointで最近、また別の18歳の少年が銃殺されたというニュースを耳にした。